遺言書が行方不明にならないために
自筆証書遺言の場合、もし原本が行方不明になったら遺言はなかったことになってしまいます。
公正証書遺言の場合は、遺言書の原本は公証役場に保管されているため、紛失の危険はありませんが、相続人が遺言の存在を知らないまま相続手続きを行なってしまうおそれはあります。
ですから、作成した遺言書をどこに保管するかは大変重要です。
よく誰にも見つからないようにタンスの奥などにしまいこむ方がおられますが、死後、もし遺言書が発見されなかったら、ご自身の想いは実現されないことになってしまいます。
また実際にあることですが、遺産分割後何年も後に遺言書が出てきた場合、もう一度遺産の分割をやりなおすことが必要になります。一度分割してしまった財産ですから泥まみれの争いに発展するかもしれません。
逆に簡単に見つかる分かりやすい場所というのも、保管場所としてはあまりふさわしいとは言えません。
例えばもし相続人が遺言書を見つけて内容をこっそり読んで、自分に不利なことが書いてあったらどうするでしょうか。遺言を改ざん、隠匿、破棄してしまうおそれがあります。
ですから、改ざん・隠匿・破棄・焼失・などのおそれがなく、かつ相続開始時に確実に発見される保管場所が適当と言えますが、以下それに当てはまる3つの保管方法について解説したいと思います。
遺言書を銀行の貸金庫に預ける
金融機関において、金庫のスペースの一部を貸し出し、貴重品や重要書類を預かるサービスが提供されています。
貸金庫のメリットの一つは何といっても安全性です。耐震や耐火性に優れているのはもちろんセキュリティーシステムもしっかり整えられていますので、安心して遺言書を預けることができます。
また機密性も貸金庫のメリットとして挙げられます。貸金庫は契約者や代理人しか開閉することができませんので、遺言書の内容をだれかに知られる心配はありません。
しかし遺言書を貸金庫に預けることには注意が必要です。
契約者の死亡が確認されると、契約者名義の銀行預金口座とともに貸金庫も直ちに凍結されてしまうことです。
開けるためには、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明等の必要書類を準備し、相続人全員の協力のもと手続きを進めなければなりません。
相続人のうち一人でも協力してくれないなら、遺言書を貸金庫からなかなか取り出せないという事態も考えられます。
また自筆証書遺言の場合、貸金庫から遺言書を取り出すことができても、すぐ中身を見ることはできません。
遺言書を開封するには家庭裁判所での検認が必要ですから、相続人全員の協力のもと必要書類を準備し、さらに手続きが必要となってきます。
こうした相当な手間がかかることを考えると、死後速やかに遺言書を確認してほしい場合には、貸金庫での保管はあまり適さないと言えるでしょう。
信託銀行の遺言保管サービスを利用する
信託銀行では、遺言の作成・保管・執行など、遺言、相続の一連の手続きを業務として行なう「遺言信託」と呼ばれるサービスを提供しています。
利用するメリットは弁護士や行政書士などの個人よりも、法人として信用性が高いことにあると言えます。
ただし費用は資産家向けでかなり高額です。
一般的に契約時の初期費用だけで20万〜30万円かかりますし、公正証書作成費や年間保管料が別途加算されます。
遺言執行のサービスも利用するなら、遺言執行報酬として最低でも100万〜150万円必要となります。
また、遺言の保管だけというサービスを提供していないこともあります。
他にもいくつかのデメリットがありますが、遺言の保管としてはかなり費用が高いという認識でよいでしょう。
遺言書を信頼できる人に預ける
一般的に遺言書を相続人の一人に預けることが多いようです。
例えば、同居して自分の面倒を見てくれている相続人に預かってもらうというようなケースです。
一見問題ないように感じますが、もしその遺言の内容がその自分の面倒を見ている相続人に有利な内容であればどうなるでしょうか。
他の相続人は「本当に自分の意思で書いたのだろうか」「無理やり書かされたのではないか」と、その遺言書の真偽に疑いを持つかもしれません。
相続人の一人に預けることは他の相続人に不信感を抱かせることにつながりかねません。
信頼できる人に預けたいなら、弁護士・行政書士等の専門家に依頼することが一番確実な方法です。
これら士業には守秘義務が課せられていますから、遺言の内容が第三者に漏れる心配はありません。
また遺言書の作成とともにその専門家を遺言執行者に指定しておけば、死後、遺言の内容にしたがって相続手続きをスムーズに行なうこともできます。
ただ、死亡時の連絡方法は事前に取り決めておく必要があります。
信頼できる相続人の一人などに、「遺言書を○○先生に預けているので、死後すぐに連絡してほしい」などと事前に伝えておくと良いでしょう。
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