遺産分割協議とは
相続が開始すると、被相続人が所有していた財産は、相続人全員の共有財産となります。この共有財産を具体的に誰がどのように相続するかを決めるための話し合いのことを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は、分割内容をまとめ全員が合意すれば成立します。そして協議の結果を書面にして、相続人全員が署名し、実印を押して作成したものを遺産分割協議書といいます。
民法では、遺言がある場合は遺言の内容にしたがった相続を行い、遺言がない場合は法律に従った法定相続を行うとしています。したがって、亡くなった方が遺言書を残している場合は、遺言者の意思が尊重され、遺言書で指定された内容にしたがった遺産分割が行われますので、基本的に遺産分割協議は必要ありません。
遺言があっても遺産分割協議が必要なケース
遺言書があっても、遺産分割協議が必要となる場合もあります。
例えば、「家と土地を長女に相続させる」といったように、一部の財産のみを遺言書で指定している場合には、その他の遺産については遺産分割によって、どのように分けるかを決めなければなりません。
また、「長男に遺産の2分の1を相続させる」といったように、遺言によって相続分の割合が指定されている場合、その相続割合にしたがって遺産をどのように分割するかを、話し合って具体的に決める必要があるでしょう。
民法では、遺言内容と異なる遺産分割も認められています。相続人全員の共有財産を分割するわけですから、相続人全員の合意があれば、遺言で指定された内容に反する遺産分割協議も有効に成立します。
ただし、遺言執行者が選任されている場合は、遺言執行者が遺言を執行するための遺産の管理処分権限を持っていますから、相続人は、勝手に遺産の処分や遺言の執行を妨げるような行為をすることはできません。遺言執行者の同意が得られるなら、遺言内容と異なる遺産分割も認められるとされています。
遺産分割協議を進めていく手順
遺産分割協議はいつまでに行うものなのでしょうか。誰が呼びかけて行うものなのでしょうか。遺産分割協議をどのように進めるかについて民法は何も規定していません。
ただし、前述したように、遺産分割協議というのは遺産を具体的に誰がどのように相続するかを決めるための話し合いですから、まず遺産分割協議を行う前提として、(1)相続人を確定する(2)相続財産を調査・評価することが必要となります。
そして、相続があったことを知った時から3カ月を超えると、相続放棄や限定承認もできなくなりますから、相続開始後、相続人の確定や遺産の調査が済んだなら、あまり遅くならない期間に遺産分割の話し合いを進めていくとよいでしょう。
ただし、被相続人が遺言で遺産の分割を禁止(5年を超えない範囲)している場合は、その期間内は遺産分割をすることはできません。
遺産分割協議は相続人全員が参加することが求められます。円滑に話し合いが進むよう、協議を取り仕切る中心となる人をあらかじめ選んで、協議の準備を整えるとよいかもしれません。
なお、話し合いの方法は特に限定されていませんので、相続人全員が集まって行うことができれば最善ですが、遠隔地に住んでいるとか、仕事の関係で都合がつかないとか、病院に入院中であるなどの事情があり、全員が集まって話し合うことが難しい場合には、手紙や電話やメールを通じてやり取りしても問題ありません。
ただし、一人でも相続人を除外して行なわれた遺産分割協議は無効となりますので、注意が必要です。
円満に遺産分割する方法
遺産分割は法定相続分に応じて分割するのが原則ですが、相続人にもさまざまな事情があるため、相続人全員の合意により自由に分割することが認められています。
民法では、遺産分割をする際の基準として、「遺産の分割は遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他の一切の事情を考慮してこれをする」と規定しています。
簡単にいえば、遺産の内容や各相続人の事情に応じて平等に分割する、ということですが、現実的にどんな方法で分割すればよいのでしょうか。遺産分割には大きく分けて次の3つの方法があります。
1 現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま分割していく方法です。
例えば、自宅は妻に、有価証券は長男に、預貯金は長女にといったように、個々の遺産を各相続人でそのまま分けていきます。一般的には、このように遺産を現物のまま分けるケースがほとんどで、一番わかりやすい遺産の分け方といえます。
ただし、個々の遺産の評価額はそれぞれ違いますから、厳密にぴったり公平に分けることはできません。多少の差異であればトラブルは生じないでしょうが、財産の価値の差が大きく、あまりにも不公平となる場合は、不足分を金銭で調整するなら、お互いに納得を得やすいでしょう。
2 代償分割
代償分割とは、一部の相続人が相続分以上の遺産を取得し、他の相続人に対して相応の金銭を支払う方法です。
例えば、遺産が被相続人の住んでいた自宅のみで、相続人の一人と同居していた場合、その相続人が自宅を相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払うことで合意するというものです。不動産や、事業承継、農地など分割するのが難しく、単独で所有するのが望ましい場合に、代償分割が適しているケースがあります。
代償金を支払うことによって不公平を調整することができるものの、代償金を支払う相続人は、多額の資金を用意しなければなりません。
経済的資力がない場合は、不動産を担保として、金融機関からの融資を利用することもできますが、支払いが滞った場合は競売にかけられ、不動産を失うおそれもありますから、慎重に検討すべきでしょう。
代償分割の場合、遺産分割協議書に代償分割に関する記載を明記する必要があります。文言としては「相続人○○は、第○条記載の相続財産を取得する代償として、相続人○○に○年○月○日までに、金○○円を支払うものとする」のように記述します。遺産分割協議書に代償分割の記載をしなかった場合、単なる贈与とみなされ、贈与税が課されるおそれがありますので注意が必要です。
代償分割は通常、金銭で支払うことがほとんどですが、金銭以外の他の財産で代償することも可能です。ただしその場合は、その財産を時価で売却したとみなされ、売却益が発生した場合には、譲渡所得税が課税されます。金銭以外の方法で代償する場合は専門家に相談されるとよいでしょう。
3 換価分割
換価分割とは、遺産をすべて換金し、現金化して分割する方法です。
遺産に不動産など分割するのが難しい財産が含まれている場合、前述したように代償分割であれば、代償金を支払うために多額の資金を用意しなければなりません。不動産を共有名義にする方法もありますが、その場合、不動産を処分する際に、名義人全員の同意が必要となるため、意見がまとまらずトラブルに発展するおそれがあります。
その点、換価分割であれば、不動産を売却して現金化し、相続人間で公平に分配することが可能になりますので、トラブルを軽減できるでしょう。ただし、被相続人と同居していた場合は、その相続人は自宅を手放さなければなりません。
また、不動産を売却するには時間や手間がかかります。急いで売却しようとすると、安値でしか売れないかもしれず、そうなると相続人間で分割する金額も少なくなってしまいます。
さらに不動産を売却し、売却益が発生した場合には譲渡所得税が課税されます。不動産を取得してから5年未満なら39%、5年以上なら20%の税率になります。
換価分割の手続きとしては、まず、不動産を相続人全員の共有名義、あるいは特定の相続人の単独名義で相続登記を行ってから、売却・換価して各相続人に分配することになります。このとき、特定の相続人に名義を移してから、売却・分配した場合、他の相続人へ金銭を贈与したとみなされ、贈与税が課されるおそれがあります。
これを防ぐために、換価分割を行う場合は、遺産分割協議書に「財産を売却換価して、その手続き費用を控除した金額を相続人に分配する」のように記載し、各相続人に分配する割合を明記しておくとよいでしょう。