建設業許可 経営業務の管理責任者とは
建設業は一般に取引金額が大きく、長期にわたって社会的責任を負う業種であるため、他の許認可を要する業種とは異なり、一定の経営経験を建設業許可取得の要件の一つとしています。
建設業に関する経営業務を総合的に管理・執行した経験経験を有する人のことを経営業務の管理責任者といいます。
経営業務の管理責任者は、建設業許可の要件の中でも最も難しい要件であり、これをクリアできないために建設業許可を断念せざるを得ないケースは少なくありません。建設業許可を取得するためには、さまざまな選択肢を検討し、要件を満たせるかどうかを判断していくことが重要です。
まず、経営業務の管理責任者の要件を満たせる経営経験とは何かについて取り上げます。
経営業務の管理責任者になれる者とは
前述のとおり、経営業務の管理責任者になれるのは、建設業に関する経営業務を総合的に管理・執行した経験を有する者であり、以下の5つの立場に分けられます。
- 法人の役員
- 個人事業主・登記された支配人
- 令3条使用人
- 執行役員
- 経営業務を補佐した者
1 法人の役員
株式会社・特例有限会社の取締役、委員会設置会社の執行役、合同会社の業務執行社員などのことをいいます。監査役、会計参与、監事、事務局長は法人の役員には含まれません。
この法人の役員は常勤であることが必要とされます。常勤とは本社・本店等において休日その他勤務を要しない日を除き、一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事していることをいいます。ですから取締役会のみに出席する非常勤役員は、原則として経営業務の管理責任者になることはできません。
2 個人事業主・登記された支配人
支配人とは個人事業主に代わって、その事業に関する一切の権限を有する使用人のことで、商業登記簿上で支配人登記されている人のことをいいます。
個人事業を子息が承継した場合に、経営経験を有する前事業主を支配人として登記して、経営業務の管理責任者としての要件を満たすことが可能です。また将来的に子息が事業を承継する場合に、子息等を支配人として登記しておくことで5年後には経営業務の管理責任者としての要件を満たすことができます。
3 令3条使用人
令3条使用人とは、建設業法施行令第3条に規定された使用人のことをいいます。建設業許可を受けた建設業者が従たる事務所を設置する場合は、その支店での契約締結名義人として、会社の代表者から一定の権限を委任された責任者にあたる令3条使用人の届出が義務付けられています。
具体的には営業所長や支店長のことを指し、その使用人として届けられた期間が5年以上ある場合は経営業務の管理責任者になることが可能です。
4 執行役員
平成28年6月1日の建設業法等の改正により、執行役員も経営業務の管理責任者になることができるようになりました。
執行役員とは、取締役等に準ずる地位にあって取締役会の決議を経て、経営業務の具体的な執行権限を与えられた人のことをいいます。取締役会を設置しない会社において「執行役員」という肩書きを持つ場合は、取締役会の決議を経て就任したものではないため、経営業務の管理責任者にはなれません。
5 経営業務を補佐した者
補佐経験とは、経営業務の管理責任者に準ずる地位にあって、資金調達・技術者等配置・契約締結等の業務全般に従事した経験をいいます。具体的には、役員に次ぐ職制上の地位にあって、建設と直接関係のある部署の長である営業部長や工事部長が当てはまります。また、平成29年6月30日の改正により、「準ずる地位」に組合理事や支店長、営業所長、支配人に次ぐ職制上の地位にある者が追加されました。
個人事業においては、事業主の死亡等によって実質的に廃業となってしまう場合の救済措置として、事業の承継者である子息や配偶者に認められます。ただし、事業専従者欄にその承継者が記載されている確定申告書が必要となります。
建設業許可に必要な経営経験の期間は?
建設業許可に必要な経営経験の期間は、経営経験を積んできた立場によって異なりますし、経営経験のある業種と許可を受けようとする業種が同じか異なるかによっても変わってきます。
また経営経験の要件を満たす場合に、なることのできる経営業務の管理責任者の種類も、経営経験のある業種のみなのか、29業種すべての業種なのか2つのパターンに分かれます。言葉では分かりにくいので下記の表をご覧ください。
建設業の経営経験 |
職制上の地位 |
経験年数 |
経管の種類 |
---|---|---|---|
許可を受ける業種と同業種 |
法人の役員 |
5年 |
経営経験のある業種のみ |
個人事業主・支配人 |
|||
令3条使用人 |
|||
執行役員 |
|||
補佐経験を有する者 |
6年 |
||
許可を受ける業種と異業種
|
法人の役員 |
6年 |
29業種すべての業種 |
個人事業主・支配人 |
|||
令3条使用人 |
|||
執行役員 |
経営経験が5年以上ある場合
法人の役員・個人事業主・支配人・令3条使用人・執行役員として、経営経験が5年以上あれば、経験のある業種の経営業務の管理責任者となることができます。ただし、この場合は単一の業種での経験が必要となります。
経営経験が6年以上ある場合
法人の役員・個人事業主・支配人・令3条使用人・執行役員として、経営経験が6年以上あれば、29業種すべての業種で経営業務の管理責任者となることができます。この場合は29業種のどの業種の経験でも問題ありません。
経営業務を補佐した経験が6年以上ある場合
経営業務を補佐した経験が6年以上あれば、経験のある業種の経営業務の管理責任者となることができます。ただし、この場合は単一の業種での経験が必要となります。
経営経験を寄せ集めて合算する場合
経営経験は一社だけの経験である必要はありません。また、経験した地位も一種類に限定されていません。ですから、複数の会社での職制上の地位や個人事業での経験を合算することが可能です。また、非常勤の役員でも経営経験として認められます。ただし、経営業務の管理者となる者は、許可を申請する会社で現在常勤で勤務している必要があります。
- A会社の非常勤の取締役+B会社の執行役員
- C会社の取締役+D会社の取締役+E会社の執行役員
- F会社の執行役員+G会社の補佐経験
- 個人事業主+H会社の取締役 など
経営経験を証明する確認書類について
建設業許可を取得するためには経営業務の管理責任者としての要件を満たしていることを書類で証明しなければなりません。
経営経験を証明するための確認書類は、都道府県によって違いがあるようですが、大阪府の場合に求められる書類について、以下解説いたします。
尚、各書類については証明する期間分の書類が必要となります。
法人の役員としての経験の場合
- 法人税の確定申告書の内、別表一・決算報告書
- 工事内容・工事期間・請負金額が確認できる工事の契約書・注文書・請求書等
- 商業登記簿謄本・閉鎖謄本(履歴事項全部証明書・閉鎖事項全部証明書)
- 法人税の確定申告のうち、役員報酬手当及び人件費等の内訳書
個人事業主としての経験の場合
- 所得税の確定申告書の内、第一表及び第二表
- 工事内容・工事期間・請負金額が確認できる工事の契約書・注文書・請求書等
過去に建設業の許可を受けていた建設業者での経験の場合
過去に経営業務の管理責任者として証明されている場合
- 建設業許可申請書または変更届の一部(表紙および様式第7号)
過去に経営業務の管理責任者として証明されていない法人の役員または個人事業主における経験の場合
- 建設業許可申請書または変更届の一部(表紙および様式第7号)
- 建設業許可通知書
- 決算変更届の一部(表紙もしくは完了通知のはがき)
- 商業登記簿謄本(役員欄の閉鎖謄本等)
支店長等における経験の場合
- 建設業許可通知書
- 建設業許可申請書の一部(表紙、様式第1号別紙2、様式第11号)
- 変更届の一部(表紙または完了通知のはがき、様式第22号の2)及び調書(様式第12号又は13号)
- 決算変更届の一部(表紙または完了通知のはがき)
執行役員等の経験の場合
- 様式第7号の証明者の3カ月以内の印鑑証明書
- 法人組織図
- 業務分掌規程
- 定款、執行役員規定、執行役員職務分掌規程、取締役会規則、取締役就業規程、取締役会の議事録、人事発令書等
- 法人税の確定申告書のうち、別表一および決算報告書
- 工事の内容・請負金額・工事期間が確認できる工事請負契約書・注文書・請書または請求書等
補佐経験の場合
- 様式第7号の証明者の3カ月以内の印鑑証明書
- 法人の組織図
法人の役員の補佐経験の場合
- 被保険者記録照会回答票・雇用保険被保険者証・雇用保険被保険者離職票
- 法人税の確定申告書のうち、別表一
- 工事内容・工事期間・請負金額が確認できる工事の契約書・注文書・請求書
個人事業主の補佐経験の場合
- 所得税の確定申告書のうち、第一表・専業専従者欄または給料賃金の内訳欄
- 工事内容・工事期間・請負金額が確認できる工事の契約書・注文書・請求書等