相続人の調査が必要な理由
遺言書の調査をした後、遺言がある場合には遺言の内容にしたがって相続手続きを進めていきますが、遺言がない場合は「誰が相続人なのか」ということを確定させることが必要です。
相続人を確定させるためには、具体的には、被相続人(死亡した人)の出生した時から死亡した時までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本等、すべての戸籍を取り寄せて、法定相続人を調べなければなりません。
身内の中では、「誰が相続人なのか」など分かり切っているので、調べる必要はないと思われるかもしれません。しかし、身内の知らないうちに、被相続人に認知をした子供がいたり、養子縁組をしていたり、前妻との間に子供がいたりといったことが、現実にあるのです。
もし、身内の思い込みで遺産分割協議を済ませ、後になって他にも相続人がいたことが判明した場合、その遺産分割協議は無効になるおそれがあります。遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立するものだからです。
また、相続手続きにおいて、不動産・預貯金・保険などの名義変更や解約の際には、相続の事実を客観的に証明するために、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍の提出を必ず求められます。
このように、相続手続きにおいては、相続人の調査・戸籍の収集は必要不可欠なものなのです。
戸籍の種類
普段の生活のなかで、戸籍が必要になるケースはほとんどないので、戸籍にはどんな種類があるのか、どんなことが記載されているのかについて、あまりよく知られていません。
相続で必要になる戸籍は、以下の3種類になります。
戸籍謄本
正式には「戸籍全部事項証明書」といいます。戸籍謄本とは、現在の夫婦関係、親子関係を証明する書類になります。
平成23年の戸籍法の改正前は、3世代の記載でしたが、現在は2世代(親と子)を単位として記載されています。同じ戸籍に3世代が記載されることはありません。
戸籍には、本籍地や戸籍の筆頭者、戸籍に記載されている者の氏名、生年月日、続柄、身分事項(出生、死亡、結婚、離婚、養子縁組)などの情報が記載されています。
また戸籍には、謄本と抄本があります。戸籍謄本(全部事項証明書)は、戸籍に記載されている世帯全員の身分関係に関する証明書であり、戸籍抄本(一部事項証明書)は、戸籍に記載されている一部の人に関する証明書となります。
相続手続きにおいては、相続人が誰なのか証明するための戸籍が必要ですので、世帯全員の情報が載っている戸籍謄本を取得しなければなりません。
除籍謄本
正式には「除籍全部事項証明書」といいます。除籍謄本とは、除籍になった戸籍に記載されている人についての証明書類になります。
婚姻や離婚、分籍、死亡等があった場合、その人の記載は戸籍から除かれ、「除籍」の文言が記載されます。
戸籍に記載されている人全員が除籍されると、その戸籍には在籍者がいなくなり、その戸籍は戸籍簿から除籍簿に移されます。つまり、空になった戸籍が除籍謄本です。
その場合、電子化された戸籍なら左上に「除籍」の文言が記載され、電子化前の戸籍なら右側欄外に「除籍」のハンが押されます。除籍簿はその年ごとにまとめられ、150年間保存されます。
この除籍になった戸籍についても謄本と抄本がありますが、相続手続きにおいては、除籍謄本によって亡くなった人の身分関係を証明します。
改製原戸籍謄本
改製原戸籍謄本とは、法律の改正によって新しく作り替えられた戸籍の元の戸籍のことをいいます。
日本の戸籍制度は明治5年(壬申戸籍)に始まり、明治31年、大正4年、昭和23年、平成6年と、これまでに何度も改正されてきました。(平成6年の改正により、戸籍管理がコンピュータ化され、従来の縦書きの様式から横書きに変更されました。)
法改正により戸籍が新しく作り替えられるため、改製の前後で同一人の戸籍が二つ存在することになります。この改製前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。
改製によってその戸籍が除籍されると、戸籍の右側欄外に「改製原戸籍」というハンが押され、改製事由と消除日が記載されます。
改製原戸籍は「かいせいげんこせき」又は「かいせいはらこせき」と呼ばれます。役所によっては、現在戸籍のことを「げんこせき(現戸籍)」、改製原戸籍のことを「はらこせき」と、実務上、区別して呼んでいることがあります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集する
複数の戸籍を収集することが必要
相続手続きにおいては、亡くなられた方の相続関係を明らかにするため、亡くなられた方の出生から死亡までの連続した戸籍が必要になります。
注意すべき点として、結婚や改製によって新しく戸籍が作られた場合、新しい戸籍には元の戸籍に記載された内容がそのまま引き継がれるわけではありません。
例えば、結婚すると親の戸籍から除かれ、新しく夫婦の戸籍が作られますが、新しい戸籍には夫や妻の兄弟姉妹に関する事項は記載されません。また、婚姻外の子を父親が認知した場合、認知の事実が父の戸籍に記載されますが、その後、転籍や改製によって新しい戸籍が作られると、認知に関する事実は記載されません。また、改製後の戸籍には、その時点で在籍している人のみが移記されますので、改正前に婚姻や死亡によって除籍された人については、戸籍から消えてしまいます。
そのため、亡くなられた方の相続関係を明らかにするためには、戸籍の編製日、消除日、筆頭者、本籍地、身分事項等を確認しながら、戸籍に記載されている情報を正確に読み取り、最終の(死亡時)戸籍を起点に、順番に出生までさかのぼって、不備なく収集していく必要があります。
その際、亡くなられた方の情報だけでなく、相続人に関する情報も読み取っていくことによって、相続人が誰なのかを最終的に確定することができます。
取り寄せる戸籍が膨大になる事例
亡くなった方に子供がいない場合、戸籍の収集は大変です。
その場合、相続権は配偶者だけでなく被相続人の両親にもありますが、ほとんどの場合両親は亡くなっていることが多いでしょう。そうすると相続権は兄弟姉妹に移りますから、そのことを証明するために、両親の出生から死亡まですべての戸籍を取得しなければなりません。
また兄弟姉妹の年齢も被相続人とさほど変わらないことが多いですから、亡くなっている兄弟姉妹がいる場合、相続権はさらに甥・姪に移りますから(代襲相続)、そのことを証明するために、亡くなった兄弟姉妹の出生から死亡までのすべての戸籍を取得しなければなりません。
そうなりますと、被相続人の出生から死亡までの戸籍以外にも取り寄せる戸籍は膨大な数にのぼります。相続人も多数に及び、各相続人の住所が離れていたり、甥・姪が相続手続きに非協力的だったりすると、遺産分割協議もまとまらず、手続きが長期化し難航することもあります。
戸籍の読み取り方
前述したとおり、新しく戸籍が作られた場合、新しい戸籍には元の戸籍に記載された内容がそのまま引き継がれるわけではありませんので、相続人の範囲を確定するにあたって、戸籍の読み取り方を知っておくことは必須になります。
本籍地を別の市町村に移した場合、新しい戸籍が作られることを転籍といいます。転籍の場合は元の戸籍の記載内容がそのまま新しい戸籍に引き継がれます。ただし、除籍された者の事項に関しては移記されません。
以下、新しい戸籍に記載内容が引き継がれないケースについて解説します。
結婚・離婚した場合の戸籍
人は出生すると自動的に親の戸籍に入るが、結婚すると親の戸籍から除籍され、新しく夫婦の戸籍が作られ、夫婦の姓を名乗る方が新戸籍の筆頭者となります。
国際結婚の場合は、日本人を筆頭者とする新たな戸籍が作られますが、外国人の戸籍はありません。その日本人の身分事項欄に配偶者の氏名や国籍等が記載されます。
夫婦が離婚すると、筆頭者でない配偶者は夫婦の戸籍から除籍されます。よく「バツイチ」という言葉がありますが、電子化前の縦書きの戸籍では除籍された配偶者の名前が×で消されています。
除籍された配偶者は、原則として、結婚前の親の戸籍の末尾に復籍します。しかし、前の戸籍がすでに除籍簿に入っている場合や、未成年の子の親権者となって入籍させる場合、離婚後も夫婦の姓を使う場合、その他の理由で新戸籍編製を希望する場合は、除籍された配偶者を筆頭者とする新たな戸籍が作られることになります。
離婚して前の戸籍に復籍するとしても、新しい戸籍を編製するとしても、戸籍の身分事項欄には「離婚日」や「離婚前の戸籍」などについては記載されますが、結婚から離婚までの身分事項は記載されません。
ですから、相続関係を明らかにするには離婚前の夫婦の戸籍をさかのぼって取得する必要があります。
認知した場合の戸籍
結婚していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)について、父または母が自分の子であると認めることを認知といいます。
母子関係は分娩という事実によって明らかなので、出生と同時に法律上の親子関係が生じ、出生届によって母の戸籍に入ります。
父子関係については、父が自発的に届出をする任意認知と、子または母が裁判所に申し立てる強制認知があり、いずれにしても役所に認知届が受理されることによって、法律上の父子関係が成立します。
認知されても、その子が父の戸籍に入籍するわけではなく、父の戸籍の身分事項欄に認知したことが記載されます。一方、母の戸籍に入っている認知された子の身分事項にも認知した事実が記載されます。
しかし、改製やその他の原因によって新たな戸籍が作られた場合、父の戸籍に記載された認知事項は、新しい戸籍には移記されません。
したがって、相続開始時の現行の戸籍だけをみても、認知した子の有無は判明できないため、古い戸籍もさかのぼって確認することが必要です。また、認知した子のいることが判明した場合、その子についての現在の戸籍まで調べ、生存の有無を確認しなければなりません。
なお、結婚していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)の法定相続分は、これまで、結婚関係にある男女の間に生まれた子(嫡出子)の2分の1でしたが、平成25年の民法の改正によって嫡出子と非嫡出子の法定相続分は等しくなりました。
養子縁組した場合の戸籍
血のつながりのない親と子の間に、実の親子と同じ関係を成立させる制度のことを養子縁組といいます。
役所に養子縁組届を提出し、受理されると養子は養親の戸籍に入り、戸籍の身分事項欄に養子縁組をした事実が記載されます。
一般的には単身者が養子となるケースがほとんどですが、既婚者が養子となる場合は、養親の戸籍には入りません。その場合、養親の戸籍の身分事項欄に養子縁組をした事実が記載されることになります。
認知事項と同じく、戸籍の変動(新戸籍の編製など)があった場合、養子縁組事項は新しい戸籍には移記されません。したがって、相続開始時の最終の戸籍だけでは、養子の有無を判明できないおそれがありますから、古い戸籍もさかのぼって確認することが必要です。
なお、養子は、養子縁組が成立した日から養親の嫡出子となりますから、相続においては実子と全く同じ扱いになります。また普通養子の場合は、実親との親子関係も維持されますから、養親と実親の双方の相続権をもつことになります。
戸籍の収集は専門家にお任せください
戸籍には保存期間があります。平成22年の改正によって、保存期間は除籍となった時から150年と定められましたが、それまでの保存期間は80年とされていました。そのため、すでに廃棄処分された戸籍もあります。また戦争や震災等によって焼失しているものもあり、戸籍を取得できない場合もあります。
また古い戸籍は読み解くのがたいへん困難です。特に大正や明治時代の戸籍は手書きの毛筆体で書かれているため、何が書かれてあるのかほとんど分かりません。
個別の事情によっても異なりますが、本籍を何度も移してきたり、結婚や離婚を繰り返してきた場合、兄弟姉妹が相続人になる場合、婚外子がいる場合等では、取り寄せなければならない戸籍が膨大になることも珍しくありません。
実費費用がかかるだけでなく、戸籍を読み解いて調査していくことは、たいへん骨の折れる作業となることでしょう。
戸籍の収集や相続人の調査に関しては、行政書士等の専門家に依頼されることをおすすめいたします。